発刊に寄せて

 先の大戦の終結から八〇年の節目を迎えるにあたり、同志社大学歴史美術研究会は『戦後八〇年論集』をここに発刊いたします。 

 わが国はこの八〇年間、先の大戦への深い反省とともに、平和国家としての歩みを着実に進めてきました。しかし、今後九〇年、一〇〇年と続いていく「戦後」の中で、あの戦争を生身で体験した世代の声が社会から退場するに従って、その記憶は輪郭を曖昧にしていきます。惨憺たる記憶の「継承」が途絶えたとき、平和国家は一つの基盤を失い、揺らぐものと考えています。 

 まさに、この「八〇年」というタイミングは時間の底に沈殿し始めているレガシーを掬い上げ、未来につなげる最後の機会であると考えています。本論集はこうした歴史に対する責務を謙虚に、真正面から果たすべく制作されたものです。 

 本論集は「個人論文」と「戦争体験記」から構成されています。前者は満洲事変以降から連合国軍占領期について、各寄稿者が各々の問題意識に基づいて執筆したものになります。後者は、各寄稿者のご親族やお知り合いの戦争体験の聞き取り、あるいはご実家に残されていた記録をベースに「記憶の再構築」を試みたものになっております。 

 そして、「まえがき」には全国津々浦々の専門家・有識者の皆様にご寄稿を賜りました。本学同志社大学からは、比較政治・ヨーロッパ政治を専門とされる政策学部教授の吉田徹先生、同じく政策学部准教授で旧ソ連・ユーラシア地域の紛争研究を専門とされる富樫耕介先生にご寄稿を頂きました。また、学外からは舞鶴引揚記念館(京都府舞鶴市)の館長・嵯峨根吉宏先生、平和祈念展示資料館(東京都新宿区)の館長で、石橋湛山研究の第一人者であられる立正大学名誉教授・増田弘先生よりご寄稿を頂きました。ご多端の折、ご協力頂きました皆様に、この場をお借りいたしまして、深く感謝申し上げます。 

 さらに、インタビュー企画も実施し、本誌に収録しております。今回、我々のインタビューに応じて頂いたのは、第一〇二・一〇三代内閣総理大臣、第二八代自由民主党総裁を務められた石破茂衆議院議員です。石破前総理は今年一〇月一〇日に内閣総理大臣として発出された「戦後八〇年に寄せて」の中で「戦争の記憶を持っている人々の数が年々少なくなり、記憶の風化が危ぶまれている今だからこそ、若い世代も含め、国民一人一人が先の大戦や平和のありようについて能動的に考え、将来に生かしていくことで平和国家としての礎が一層強化されていくものと信じます」と述べられていました。まさに我々が持つ問題意識はここにあり、石破前総理に直接お話をお伺いすることで、「若い世代」が八〇年前の出来事に真摯に向き合い、平和国家を未来に託す役割を果たすことに大きな示唆を得ることができると考え、ご依頼をするに至りました。ご多忙の中、我々の活動にご理解頂き、インタビューに応じて頂きました石破茂前内閣総理大臣ならびに議員事務所の皆様にはこの場をお借りし、深く感謝申し上げます。 

 今回、執筆にあたって様々な史料や証言に触れる中で、八〇年という時間の重みを改めて感じています。本論集でお示しした論考や記録の一つ一つが、現在、そして未来に「これからの戦後」を問い続ける多様な視点を提供し、歴史への新たな省察を促すための一助となることを願ってやみません。 

 改めて、インタビューに応じて頂いた石破茂前内閣総理大臣ならびにご寄稿頂いた諸先生方、関係各位に衷心より深甚なる謝意を表します。ここに『戦後八〇年論集』の発刊を高らかに宣し、冒頭のご挨拶とさせて頂きます。 

同志社大学歴史美術研究会幹事長 窪田祥太郎